雑  感
2001年8月


パイオニアの快進撃
このところ、パイオニアから、BPOのヨーロッパコンサート、及びヴァルトビューネのDVDが続々と発売されているのは、なかなかの快挙ではないでしょうか。 8月下旬に、98年のヨーロッパコンサート(ストックホルムのアバド)と98年のヴァルトビューネ(バレンボイムのラテンアメリカ音楽)が出たようですが、 9月下旬には、96年のヴァルトビューネ(アバドのイタリア音楽)と97年のヨーロッパコンサート(パリのバレンボイム)の発売も予定されているようです。

実は、6月下旬に、パイオニアから、91年のヨーロッパコンサート(プラハのアバド)がDVDで発売されたとき、LDはソニーから発売されており、もともとソニークラシカルの映像なのに、どうしたのだろうと不思議に思ったのでした。 ところが、7月下旬には、もう既にEMIからDVDが出ている97年のヴァルトビューネ(メータ)が、パイオニアからも発売され、来月も既にEMIからDVDで出ている97年のヨーロッパコンサート(バレンボイム)の発売が予定されているわけです。 整理してみると、90年代のヨーロッパコンサートとヴァルトビューネは、 すべてパイオニアから出そろうことになるようです。 ということで、 DVDリスト をまとめてみました。 これをみてもわかるように、LDはEMIで出ていたものでも、 DVDはパイオニアからというものがあるようです。 何はともあれ、パイオニアの気概には、敬意を表したいものです。

ところで、2000年のヨーロッパコンサート(アバドの第九)とヴァルトビューネ(ケント)は、日本でも、ドイツ本国と同様、TDKから発売されているわけですが、 2000年以降は、パイオニアの手からは離れることになるのでしょうかね。 この TDKから発売されているDVD、昨年のヴァルトビューネはプログラム最初と最後の バーンスタインの曲がカットされていたり(まあ、1曲目の不調の《キャンディード》序曲は仕方がないとしても)、 ドイツで発売されている98年のヴァルトビューネ(バレンボイム)では、 《アランフェス協奏曲》がカットされていたりと、 制作費を節減するためか、少々手抜きしているような気がするのですが、 どうなのでしょうね (98年ヴァルトビューネのパイオニア盤は、注文中でまだ手許にないのですが、 ちゃんと《アランフェス》も入ってますよね)。

それにしても、今年2001年のヨーロッパコンサート(イスタンブールのヤンソンス)とヴァルトビューネ(ドミンゴのスペイン音楽)は、 いつになったら放送されるのでしょう。まったく。 (明らかに、某放送局による視聴者への嫌がらせとしか思えないのですが。)

(8月28日)

《パルジファル・ツィクルス》〜 「ここでは時間が空間になる」

《ファルスタッフ》の幕切れの台詞 「この世はすべて冗談」 に基づいたツィクルスも終わり、来シーズンは《パルジファル》の 「ここでは時間が空間になる」 が、ツィクルスのモットー。 アバド指揮による《パルジファル》(ベルリン2回、ザルツブルク2回)がその中心とはいえ、 他にも、いくつかのプログラムが、《パルジファル・ツィクルス》と銘打たれています。

一番早いのは、10月のケント・ナガノ指揮のコンサート。 アダムズの《和声学》からの〈アンフォルタスの傷〉。 12月は、 サロネンの指揮によるサーリアホの《グラール・テアトル》。 どんな曲なのか、両方ともちょっと聞いてみたいものですが。 なお、「サーリアホ作品集」のCD(この曲を含む)は、この春にソニーから発売される予定だったのに、発売が未定延期になってしまったようで、残念です。 12月には、他に、BPO初登場のノットの指揮で演奏される リゲティの《アトモスフェール》、《ロンターノ》、《サンフランシスコ・ポリフォニー》、そしてシュトラウスの《ツァラトゥストラ》などのコンサートも、このツィクルスの一環ですが、何が《パルジファル》と関係があるのでしょうか。 「アトモスフェール(大気)」「ロンターノ(遠くの)」といった題名が、空間と関係があるということでしょうか。

2月に演奏されるラトルのバッハ《ヨハネ受難曲》がこのツィクルスに含まれるのは、 新聞記事によると、 受難の物語の中で、《ヨハネ》だけに「槍」に関する言及があるからのようです (die einzige Passionserzählung mit Speer) 。 念のため、『聖書』を確認してみると、確かに「兵士の一人が槍でイエスのわき腹を刺した」と書かれています。 3月のティーレマンのコンサートは、メンデルスゾーンの交響曲第5番《宗教改革》の第1楽章序奏で、《パルジファル》でも使われる「ドレスデン・アーメン」の旋律が出てくる わけですが、 まあ、これは、前回、ご紹介したアバドのインタビューでも触れられていますね。

ブルックナーの交響曲を含むプログラムも、《パルジファル・ツィクルス》に組み込まれています。 新しくインテンダントになるオーネゾルクは、「ブルックナーの立体的和声法」という言い方で空間と関係づけていますが、まあ、ワーグナーと関連の深い作曲家ということもあるのでしょうか。 ヴェルザー=メストによる第3番(1月)、 ハイティンクによる第5番(6月)、 そしてヴァントによる第6番(3月)。 ヴェルザー=メストは、今回がBPO初登場とのことですが、 やや意外ですね。 93年9月、ブルックナーの第8番をテンシュテットの代役で ヴェルザー=メストが振ることになり、楽しみにしていたのですが、 演奏会当日にベルリンに戻ってみると、 ヴェルザー=メストもキャンセルして、 結局、ウルフ・シルマー指揮によるベートーヴェンの第4番とシュトラウスの《家庭交響曲》というプログラムに変わったのでした (そのとき、もし振っていれば、BPO初登場になったのでしょうが、 その後、8年も声がかからなかった?)。 あと、4月のガーディナー指揮によるシャブリエ《グワンドリーヌ》前奏曲、 フランクの交響曲などのコンサートもこのツィクルスですが、ワーグナーに影響を受けた音楽ということでしょうか。

以上、やっと来シーズンの Vorschauを、パラパラと眺める余裕もできたので、 あれこれ書いてみました。

(8月25日)

《パルジファル》の鐘
《パルジファル》というと、昨年秋の尼崎での関西二期会による公演は、 私も聞いた2日目に関しては、なかなか素晴らしい演奏で、 通の方々からも絶賛されていたようです。 私も満足はしたのですが、唯一残念だったのが、第1幕と第3幕の聖杯城への場面転換で 鳴らされる鐘の音。 確か、YAMAHA提供のシンセサイザーが使われていたのですが(プログラムに機種名も書かれていたはず)、オーケストラのピッチと全然合っていないのですね。 《パルジファル》の公演でいつも楽しみにしている鐘の音が、 まったくオケのサウンドに溶け合わず、どうして不協和音のように聞こえてきたのでしょう。 ここだけは、本当にガッカリでした。 シンセサイザーだったら、ピッチぐらい簡単にそろえられると思うのですが、 そういう訳にもいかないのでしょうかね。

《パルジファル》というと、来シーズンのBPOによる演奏に期待が高まるところですが、 辻野さんの Claudio Abbado資料館で紹介されている 今年1月26日の La Repubblica紙の アバドのインタビューは、《パルジファル》に触れている個所もあって、 いろいろ参考になります。

ペーター・シュタインとは、2002年のザルツブルク復活祭で『パルジファル』に取り組まれるのですね。

このオペラのためにアイディアをたくさん持っています。 次シーズンの統一テーマによるベルリン・ツィクルスは『パルジファル』にインスピレーションを得ていて、プログラムにはシューマン『ファウストからの情景』とメンデルスゾーンの交響曲第五番(『宗教改革』と呼ばれるこの交響曲の一つの主題は『パルジファル』で再び取り上げられます)が含まれる予定です。 さらに、ザルツブルクの『パルジファル』では、通常使われるものに比べて二オクターブ低い、ヴァーグナーが要求したとおりの鐘を使うつもりです。

来シーズンの《パルジファル・ツィクルス》の考察は、四国に無事に戻れたらするとして、 やはり鐘の話が一番気になりますね。 「通常使われるものに比べて二オクターブ低い、ヴァーグナーが要求したとおりの鐘」 とは、どのようなものなのでしょう。 アバドは、マーラー9番でも、第1楽章の鐘の音にこだわっていて、 ほとんどの指揮者が当然のようにチューブラベル(早い話、のど自慢のチャイム)を使用しているのに、 アバドはチューブラベルを使用せず、金属片を叩かせながら、シンセサイザーも併用するというやり方でした(だから、あまりはっきりした音ではない)。 私が見たのは、94年の日本公演ですが、打楽器奏者の人に質問してみると、 チューブラベルを使うと、 マーラーの記譜より1オクターブ高くなるので、 アバドの指示で、そういうやり方をしたとのこと。 ついでに言うと、この春の《ファルスタッフ》でも、 終幕の鐘は、チューブラベルではなく、本格的な鐘を使ってました (チェリビダッケが《展覧会の絵》で使わせたような鐘と書いても、 よくわからないかもしれませんが)。 アバドも、なぜか、鐘にはこだわりを見せるようです。
(8月20日)

気温が10度近くも低い(高松 → 仙台)というのは、やはり快適ですね。
来シーズンのBPOは、《パルジファル》が中心ということで、 来春までには、《パルジファル》の作品分析もしておきたいところですが、 ここのところ、《妖精》《恋愛禁制》《リエンツィ》という ワーグナーの初期の3作品ばかり、聞いたり調べたりしている次第。 実は、 この秋の支部学会の当番校に当たっていて、 昨年のこの学会の懇親会で、来年はワーグナーのシンポジウムなんか、 どうでしょうかね、と軽い気持ちで提案したら、 何人かの先生方から同調いただき、本当にやることに。 幸い、岡山大学の先生が中心になって動いてくださっているのですが、 当番校の私も、きちんと責務を果たしたいですしね。 まあ、どうなりますやら。 一応、初期ワーグナーに焦点をあてるということで、 《妖精》《リエンツィ》《オランダ人》《タンホイザー》が 話題の中心になる予定ですが、私が発表に参加するしないにかかわらず、 シンポジウムの概要は、そのうちご紹介するつもりです。 ちなみに、この学会の翌週には、 秋の定期演奏会 で、 マーラー5番をやることになっており、体に気をつけて、 何とか乗り切りたいものですが。

1983年のワーグナー・イヤーにおけるミュンヘンでのワーグナー全舞台作品公演の記事 (I教授が書かれている)を読むために、実家にあったこの年の『音楽の友』誌をめくっていたら、 安永さんのインタビューが、たまたま目につきました(1983年9月号)。 カラヤンの後継者に関する話題で、

「面白い話があるんです。 聖降誕祭のコンサートで、マゼールがウィーン・フィルとの約束を蹴って 代役に立った。 そのブルックナーの七番がすばらしかった。 終楽章など近来の出色。 で、やはりマゼールか小沢さんか。 メータは脱落、ムーティが上昇。 テンシュテットは感情過多、ジュリーニは賛否両論。 アバードは本番はすばらしいが練習は最悪。 あと、ホルスト・シュタインあたり」
と書かれていました。 まあ、この時期の評価ということでしょうか。 「アバドは練習は最悪」なんて、この頃から言われていたんですね。

高松には、航空券の安くなる21日に戻る予定ですが、 台風11号が近づいているようですね。 このところ、なぜか、飛行機のトラブル続きなので、なんか、またぶつかりそう。 (昨年9月は、関空発のLH便が、機体の整備点検のため出発が4時間遅れ、ケント/ベルリン・ドイツ響のコンサートが聞けなくなった。 今年6月も、予定していたANA便が機体の整備点検のため飛ばなくなり、《グレの歌》が後半しか聞けなかった。)

(8月19日)

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