1998年4月12日

4月12日は、やはり2泊以上は無理とのことで、朝食後、ホテル替え。 小雨も降る中、ホテル探しに出かける。 場所の利便さの点で、ミラベル宮殿と中央駅の間がいいかと思い、ペンション・レヒナーをあたってみると、ツインなら空いているとのこと。 とりあえず、その部屋を押さえてもらい、旧市街のホテルをチェックアウトしてから、再度、荷物を背負って徒歩で移動してくると、何故か、シングルも空いたとのこと。 お陰で、1泊680シリングで済んだ(ちなみに、それまでのホテル・エレファントは、1泊1100シリング)。

のんびりする間もなく、午前11時から、祝祭大劇場でのマーラー・ユーゲントオーケストラの演奏会。 寒さで、体調が必ずしも万全とはいえないのが残念。2階席の安いチケットを当日券で求めたら、たったの200シリング。

Kent Nagano/Gustav Mahler Jugendorchester

Strawinsky:  Petruschka   (Fassung von 1947)
Berlioz:  Les Nuits d'ete
  Dawn Upshaw,  Sopran
Scriabin:  Le Poeme de l'extase

昨年同様、相変わらずの大編成。 2曲目のベルリオーズを除き、弦楽器の編成は、22-20-18-14-11 という感じ。 とにかく、前夜のアーノンクールでは、室内管弦楽団のような演奏を聞かされたので、前夜とうってかわっての音の大饗宴。 それだけで、もう、ワクワク、ウルウル。 後半のスクリャービンの「法悦」も、この大人数の弦楽器、各4人ずつの木管楽器、ホルン8本、トランペット5本、トロンボーン3本、チューバ1本といった編成での厚みのある演奏で、大いに楽しませてもらった。 ただ、今回、このオーケストラの演奏会がザルツブルクでは2回も開催されたせいか、私の聞いた日は6割程度の入り。 それでも、終演後は、管楽器の各トップ奏者が起立するたびに歓声があがり、これまた相変わらず元気のいい演奏会となった。 終演後は、体調が今一つなので、ホテルで休息。

15時からは操り人形による「ペーターと狼」。 ザルツブルクの有名なマリオネット劇場は、前から一度見たいとは思っていたのだが、なかなか見る機会がなく、今回、イースター音楽祭との共催によるこの演目で、初めて舞台に接することができた。 こじんまりとした劇場。

Salzburger Marionettentheater
Prokofieff: Peter und Wolf

Regie:    Gretl Lindinger
Bühnenbild und Kostüme:  Marouan Dib

Erzähler:  Tobias Moretti

Es spielt das Ensemble des Salzburger Marionettentheaters unter der Leitung von Professor Gretl Aicher
Es musizieren das Salzburger Oktett und Mitglieder des Mozarteum Orchesters unter der Leitung von Markus Tomasi

皮肉なことに、今回の音楽祭のプログラムの中で、唯一、売り切れになった催し。 会期中、5回の上演があったものの、客席数が少なく、子供が多いというのも原因のようだ。 とはいえ、普段はイースター音楽祭とは無縁の子供たちが、こうした企画でイースター音楽祭の催しの一つに参加できるという点では、なかなかいい企画だと思う。 とにかく、チケットを日本から事前に予約しておいたのは大正解。 でなかったら、見られなかったかもしれない。 語り手のモレッティは、この国では有名な人のよう。 この人が語りを担当しているORF製作のCD( 演奏は、Christoph Eberle / Symphonieorchester Vorarlberg )も売られていたので、お土産に購入。

そんなに長い曲ではないので、30分少々で終わるのかと思っていたら、最初の30分近くは、「ペーター」とは関係のない「火の鳥」の話で、子供たちを笑わせていた。 それから、やっとプロコフィエフが開始。 弦楽器5人、木管楽器4人、それに打楽器とピアノが1人ずつの、総勢11名による演奏(来日したこともあるザルツブルク八重奏団が主体)。 金管楽器がないので、狼のホルンはピアノでの代奏。 人形劇については、登場人物がそれぞれ個性あふれる操り人形に仕上がっていて、とにかく面白く、最後まで飽きずに楽しめた。

この日は他に、16時から、ミラベル宮殿で、イースター音楽祭のスポンサーを務める Vontobel というスイスの金融機関の主催する催しがあり、これには少し遅れて出席。 この会社は文化事業の一環として様々な冊子を出版していて、その1冊として、今回、"Festspiele"(音楽祭)という冊子を出版。 それのプレゼンテーションという訳である。 これを執筆したマリオ・ゲルタイスという音楽編集者と、チューリヒやウィーンの歌劇場の総監督を務めたヘルムート・ドレーゼの二人が話をしていたが、30分くらいで退散。 ホテルに戻り、夜のコンサートまでの間、鋭気を養うことにした。 とにかく、ここまで来たからには、風邪であろうが何であろうが、気力でおしのけるしかない。

そして、18時30分からは、私としては、今回の最大のハイライトともいえる、ヤンソンス指揮のカラヤン追悼演奏会。

Gedächtniskonzert für Herbert von Karajan
Mariss Jansons/Berliner Philharmonisches Orchester

Chausson:  Poeme de l'amour et de la mer
  Waltraud Meier,   Mezzosopran
Strauss:  Eine Alpensinfonie

ヤンソンス指揮の「アルペン」は、舞台上の大編成のベルリン・フィルを見るだけでも壮観ながら、演奏も実に満足のいくもの。 以前、浜松で小澤/ウィーン・フィルによる「アルペン」を聞いたこともあるが、その時はオケの美質には大変感心したものの、指揮者がこの曲を「シェヘラザード」とでも勘違いして振っている感じで、それにはちょっとがっかり。 狩りのホルン、小澤は客席を振り返って最上階の客席から吹かせていたが(ベルリオーズのレクイエムでもそういうことをしてたから、これがしたくて「アルペン」も取り上げたのかなとか、穿った見方もしたくなる)、ザルツブルクでは、ちゃんと楽譜通り、舞台裏から厚みのある狩りのホルンの音が聞こえてきた。 もちろん、ステージ上には8人のホルン奏者もいるし、なかなか贅沢な感じ。 全般に軽目の小澤とは違って、ヤンソンスは実にゆったりとしたテンポで、じっくり聞かせてくれる。 これは、8月にFMで放送されたベルリンでの演奏と同様。 彼はオスロ・フィルとの来日公演でも感心したが、やはり素晴らしい指揮者といえる。

この曲が大好きな私は、シュルツの大太鼓がクレッシェンドしたあと、日の出がシンドルベックのシンバル(ちょっと元気が良すぎる?)とともに始まり、ゼーガースのティンパニが炸裂すると、もう頭の中は真っ白(^_^;)。 冷静なコメントは書けそうにないが、その後の薮を抜けて、滝に至る場面なんか、もう見事な演奏という他なく、ため息の連続。 もっとも、山頂の前の危険な瞬間のトランペットのソロは、難所のようで、グロートもややミスがあったが、こんなのはささい。 とにかく、この辺りから山頂への盛り上がりは、ヤンソンスのゆったりしたテンポにのって、ベルリン・フィルの面目躍如といった演奏。 セーガースのティンパニも快調そのもので、パワー全開の8本のホルンに対抗すべく、例によって両手で叩きまくってる感じで、やりたい放題(^_^)。 このあと、嵐という見せ場もやってくるが、これがまた、凄いのなんの。 そして最大音量の個所の雷のドンナーマシンだが、これはキーボードを使ってシンセサイザーの人工音で処理。 もちろん、ちゃんと雷の音がしていたので、別に鑑賞上、まったく不満はない。 そのあとのオルガン、ザルツブルクでは電子オルガンだが、これも不満を覚えるものではない。 最後の夜の最弱音、これもベルリン・フィルならではのもの。 もう、これで終わっちゃうの、と名残を惜しみつつ全曲の終了となった。 実は、この曲をベルリン・フィルの生演奏で聞くことが長年の夢だったのだが、実際に目の前でそれが繰り広げられると、何か、ちょっとあっけない気もした。

弦楽器の人数は、アバドのマーラーの時など、第1ヴァイオリンからコントラバスまで18〜10人と増大するが、この「アルペン」は通常の16〜8人。 それでもこれだけ豊かで厚みのある音が出るのだから(アバドのマーラー以上?)、オケの威力は、さすがにまだまだ健在という印象。 コンマスは安永さんで、巧みにオケをリード。 木管は、パユ、シェレンベルガー、フックス、シュヴァイゲルト、金管は、ドーア、グロート、ゲスリングがそれぞれトップを務めるという布陣。 前半に演奏されたショーソンの「愛と海の詩」は(前日にウィーンで「パルジファル」のクンドリーを歌ったばかりのマイアーが、赤いドレスで清澄な歌を聴かせてくれた)、弦楽器の美しさ(特に安永さんとチェロのクヴァント)に感銘は受けたものの、後半の「アルペン」が気になって(ステージには空いた椅子がいっぱい並んでいるし ^_^)、落ち着いた気持ちで聞けなかったのは、やはりまだまだ修行が足りない?(^_^;)。 ちなみに、ホルンのドーア、トランペットのグロートは「アルペン」まで温存状態で(ショーソンでは、ホルンは確かイェツィールスキー、トランペットはクレッツァーがトップ)、やはりこの2つの金管奏者にとっては、「アルペン」は難曲なのであろう。 前日の昼のアーノンクールの「英雄」の公開プローベの始まる前、ステージ上でのオケの音出しで、ドーアとグロートは翌日の「アルペン」のフレーズばかりさらっていて、この時からもう、「アルペン」に対する期待が高まっていたのだった。 何はともあれ、この日も充実した1日が終了。


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