イースター音楽祭もいよいよ最終日。 まずは、午前11時からモーツァルテムでのコントラプンクテの最終回。
Kontrapunkte VIIこの日は、ベルリン・フィルのインテンダントのヴァインガルテンが姿を見せ、曲の合間や休憩時間に出番の終わった団員たちと歓談していた。 団員とのコミュニケーションもうまくいっているような印象を受けた。 バルトークのコントラステは、メトロポリス・アンサンブルの3人による演奏。 クラリネットはフックス。 シュニトケはレンネ四重奏団。クヴァントがチェロを担当する若手のアンサンブル。 ヤナーチェクの組曲は安永、クリスト、クヴァント、シュトルなど、お馴染みの弦楽器奏者6名による、相変わらずの美しい見事な演奏。 バルトークの第1弦楽四重奏曲とカンチェリの「夜の祈祷」は、アポス四重奏団による演奏。 アルマジ、オルロフスキー、シェーファー、マニンガーの若手団員による四重奏団。 最後のカンチェリの曲は、途中でテープの音も加わり、なかなか印象的。 このコンサートも盛りだくさんだった。Bartok: Kontraste
Schnittke: Klavierquartett
Janacek: Suite für Streicher
Bartok: Streichquartett Nr.1
Kancheli: Nachtgebete
15時からは、前日と同様、スポンサーの Vontobel 社主催の催し。 会場は、ミラベル宮殿のマルモアザールで、まあ、ここに入れただけでも収穫。 この日は、ベルリン・フィルのインテンダントのヴァインガルテンをゲストに招いて「ボリス」の解説。 参加者は60人程度。 進行は、前日と同様、音楽編集者のゲルタイス。 この人の作品解説の話は、体調維持のため寝ていて聞いていないが、その後のヴァインガルテンの話は、せっかくなので、耳を傾けた。 彼は、とにかくアバドが全曲を暗譜していることを称え、また偽ドミトリー役の若手のテノール(ガルーシン)を誉めていたようだった。 その後、作品から離れて、ゲルタイスがヴァインガルテンにいろいろ質問する形となり、、これはなかなか面白かった。 「アバドはどうして辞任するのか?」との問いには、「それは、むしろ私も知りたいぐらい」とか、ゲルタイスがいろんな後任候補の名前を挙げると、「いろいろご存知ですね。まあ、これはオケが決めることで、私が決める訳ではないので」と笑って返答したり。 あと、この時に、私は2002年までのオペラの予定を初めて知ったりした。 このあと、主催者の好意で、立食パーティーのようなものがあり、シャンパンやジュースを飲みながら軽食で腹ごしらえし、「ボリス」に備えることができたのは幸いだった(^_^)。
18時から、いよいよ音楽祭のクライマックス、「ボリス・ゴドゥノフ」の最終公演。 なお今回、別の日の公演が録画されたという情報もあり、もしこれが事実だとすると、大変に楽しみである。
Mussorgski: Boris Godunow Musikalische Leitung: Claudio Abbado Regie, Bühnenbild und Kostüme: Herbert Wernicke Boris Godunow Anatoli Kotscherga Fjodor Ruxandra Donose Xenia Lisa Larsson Xenias Amme Eugenia Gorochowskaja Schuiski Philip Langridge Schtschenlkalow Albert Schagidullin Pimen Alexander Morozow Dimitri Vladimir Galouzine Marina Marjana Lipovsek Rangoni Sergei Leiferkus Warlaam Aage Haugland Missail Wilfried Gahmlich Schenkwirtin Marianna Tarasova Narr Alexander Fedin Berliner Philharmoniker Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor Slowakischer Philharmonischer Chor Bratislava Tölzer Knabenchor
ヴェルニケの舞台が、評判通り大変に面白く、最後まで飽きることなく見れたのは幸いだったが、さすがに、全曲終了後、「疲れた」というのが正直なところ(演奏時間は、前半が18:05〜19:45、後半が20:10〜21:40 )。 もちろん、心地よい疲れではあるが(^_^)。
演奏の迫力という点では、全体を通して合唱の方がオケを圧倒しており、ベルリン・フィルはむしろ、あえて叙情的な美しさを強調するような演奏に終始していた。 もちろん、ポロネーズのような曲では、さすがベルリン・フィルという上手さではあるが。 また、暗譜で指揮する指揮者のこのオペラに対する思い入れを感じることができたのもよかった。 今回の上演で、オケの演奏面では、アバドの理想がほぼ達成されたのではなかろうかと思う。 特に木管楽器と弦楽器の透明な響きが特徴的で、これはこれで、アバドがベルリン・フィルに就任後、このオケに求めてきたもののであろうし、私も納得させられるものがあった。
舞台上の動きでは、戴冠式で巨大な鐘が上に吊り上げられていくのが圧巻だが、 ボリスの死の場面で、今度は逆にこの鐘が上から下に降ろされてくるのも感動的。 この辺の音楽と演奏は実に素晴らしいもので、アバド時代もこんな感じで幕切れがやってくるのだろうかという想いと重なり、なかなか心打たれる忘れがたいシーンであった。 なお、ヴェルニケの舞台についての詳細は、97年8月にゲルギエフ/ウィーン・フィルの演奏でご覧になったtujimotoさんの詳細な報告をご参照いただきたい。
それから、オケの配置が大変に興味深く、ピット内の左から右にかけて、ビオラ、チェロ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリンの順に着席。 従って、指揮者のすぐ目の前の右手にコンマス(スタブラヴァ/安永)、左手にチェロ(クヴァント/ファウスト)が座っている。 コントラバスは最後列で横に7本並んでいて(シュトルがトップ)、その前に座る木管は、ブラウ(Fl.)、マイアー(Ob.)、トーマス(Kl.)、シュヴァイゲルト(Fg.)がトップ。 一番最後の幕切れの愚者の登場の後、シュヴァイゲルトのファゴットだけで演奏が終了するのだが、これも実に印象的だった(最後はピットの譜面台の照明も消されていたと思う)。 金管は、マスクニティ(Hr.)、グロート(Tp.)、アルント(Tb.)がトップ。 チューバはヒュンペルで、戴冠式の場面の冒頭とか、この原典版でチューバの目立つ個所はばっちり。 ティンパニは新人のヴェルツェルで、ベルリン・フィル入団前は、シュヴェーリンの歌劇場で演奏していただけあってか、ピットでの演奏も無難な感じ。 打楽器では、ベテランのミュラーが、ボリスの死の場面での数枚の鉄板プレートによる鐘、その後の革命の場面でのビックリ・シンバルなどを決めていた。 94年の再演とはいえ、それだけの価値のある素晴らしい上演だったといえる。 ただ残念なのは、客席に空席が目立ったこと。 2階のサイドの後方などは、ほとんどガラガラといった状態だった。
今回のイースター音楽祭を私なりに総括すると、アバドに関しては(今年から客演指揮者を2人にして、登場回数を減らしたこともあるが)、彼に向いた得意の曲を取り上げたのが、成功した最大の要因と思われる。 「ボリス」の演奏は、ベルリン・フィルとの共同作業の一つの総決算ともいえる精緻さが光る。 ヤンソンスについては、ベルリン・フィルの往年のサウンドを彷彿させる演奏を繰り広げたことを高く評価すると同時に感謝したい。 アーノンクールについては、何もベルリン・フィルを使って演奏する必要があったのかという疑問も残るが、まあ、とりあえず、実演とプローベに接することができた点では、一応満足。 それにしても、このイースター音楽祭、会期中の天候不順はいつものこと、これに負けずに体調を維持できるかどうかが、最大のポイントといえるかもしれない。 ちなみに、音楽祭終了後の翌日、4月14日は雪が舞った。