1999年4月1日(木)

この春の旅行では、3月26日に関西空港を出発し、ミュンヘン(バイエルン放送響)、エッセン(「ピーター・グライムズ」)、デュッセルドルフ(「パレストリーナ」「カーチャ・カバノヴァ」「アイーダ」)、ビーレフェルト(「トゥーランドット」)と、3月末まで、連日、ドイツ国内でコンサートやオペラを鑑賞した後、4月1日にザルツブルク入りしたのだった。 (このうち、3本の20世紀オペラについては、こちらに拙文あり。)

ルフトハンザ便でデュッセルドルフ ─ フランクフルト ─ ザルツブルク と乗り継いで移動したが、デュッセルドルフ ─ フランクフルト間も、フランクフルト ─ ザルツブルク間も、どちらも50分足らずの飛行。 前者の路線は完全にビジネス路線のためか、機内では何も出なかったが、後者のザルツブルク便では、あわただしいながらも、ちゃんと軽食と飲み物が出たのは、有り難かった(^_^)。 そうこうしているうちに、いよいよザルツブルクに近づく。 この日は大変に天候もよく、上空からザルツッハ川が視界に入ってくる。 ザルツブルクのやや北の方で川が蛇行しているところがあり、ここが2年前に足を伸ばしたオーベルンドルフ(「清しこの夜」の発祥の町)かと、懐かしく思う。 さて、ザルツブルク空港に着くと、何と、荷物が届いていないではないか。 フランクフルトでの乗り継ぎ時間は、1時間少々はあったものの、この日は、イースターの聖金曜日の前日の Gründonnerstag。 空港はイースター休暇の旅行客で混雑しており、あれだけ大きな空港では、1時間程度では、荷物の移動も間に合わないのでしょう。 荷物と一緒に到着しなかった経験は、今回が初めてなので、ちょっとショックを受けはしたものの、同じような人が大勢いたようで、ちゃんと荷物が間に合わなかった人のリストがザルツブルク空港までファックスで送られてきていた様子。 その書類の自分の名前のところに、今回のホテルの住所を記入してもらい、荷物もないまま、タクシーでホテルに直行したのであった。 今回のホテルは Hotel Online Austria であらかじめ手配しておいたところ。 本当に予約しておいてよかったと思う(昨年は到着後に決めたりしたので)。 なお、ホテルは Wolf-Dietrich Str.にある、通りと同名のホテル。 初めてのホテルだが、自分が泊まりたいと見当をつけた場所に位置する、なかなかこじんまりとして快適なホテルであった。

さて、ホテルにチェックインしたのは、午後3時頃ではなかったかと思うが、とにかく天気がよくて暖かいのには驚いてしまう。 この良好な天候が、音楽祭期間中ずっと続いたのは、有り難いやら、びっくりするやら。 イースター音楽祭に来るのは、95年、97年、98年に続いて4回目なのだが、音楽祭期間中、こんなに温暖で快晴な日が続いたのは初めてである。 音楽祭終了後、ホテルから空港へ向かうタクシーの女性運転手に聞いた話でも、イースターがこんなにいい天気だったのは、まったく珍しいとのこと。 まあ、今回、アバドが「トリスタン」を音楽祭で取り上げるということで、天国のカラヤンが気をよくして、好天を恵んでくれたのではないかと、内心、本当にそんな気持ちにもさせてくれるほどであった(^_^)。 「トリスタン」の2回目の公演は、カラヤンの誕生日でもある4月5日だったし。

この日の予定は、午後7時から、モーツァルテウムでBPOメンバーの演奏によるマルタンのオラトリオ「魔法の酒」を聞くだけ。 それまで、まだ時間に余裕があるので、まずは祝祭劇場に足を運ぶ。 音楽祭の雰囲気を嗅いでくるということもあるが(^_^)、最大の目的は、劇場の売店(ショップ)で、音楽祭の全体のプログラム(全1冊)と個別のプログラム(計4冊)をまとめて買うことである。 毎晩、会場ロビーで1冊ずつ買うのが面倒ということもあるが、ショップで買うと、クレジットカードも使えるから便利である。 あとトリスタン関連の特別冊子の他、ついでにBPOのマークの入った紺の帽子まで買ってしまったが(^_^;)。

さて、コントラプンクテという室内楽シリーズは、アバド時代のイースター音楽祭の名物の一つだが、チケットは当日券で楽勝である。 昨年までは、全自由席で、何と100シリング(約1000円)だったが、今年からは、指定席になり、300シリング(約3000円)に値上げ。 とはいっても、これでも安いぐらいの値段ではある。 この日も当日券で、前の方のなかなかいい席が手に入った。



Kontrapunkte V (1. April 19:00 Uhr)

Martin
マルタン
Le vin herbé (Der Zaubertrank)
「魔法の酒」
Oratorium nach Joseph Bédiers Novelle "Tristan et Iseut"

Scharoun Ensemble Berlin,   RIAS Kammerchor
シャルーン・アンサンブル他   リアス室内合唱団
Dirigent: Marcus Creed
マルクス・クリード



この作品は、トリスタン伝説に基づくとはいえ、本当に渋い曲である。 CDも作曲家の自作自演盤しか知らないが、滅多に演奏されない曲であろう。 生で聞けるのは貴重な機会だろうと聞きに出かけた訳だが、 シャルーン・アンサンブルを中心とするBPOメンバーによる演奏は、さすがであった。 7人のBPOの弦楽器奏者の素晴らさは、何も言うことはない。 ヴァイオリン2本(カッポーネ、イヴィッチ)、ヴィオラ2本(クネルツァー, タリルツ)、チェロ2本(デューヴェン, シュヴァルケ)、コントラバス1本(リーゲルバウアー)、 それにピアノ(M.シュトックハウゼンという女性)が加わる器楽陣。 女声11名、男声11名のリアス室内合唱団も、その清澄さで見事の一言につきる。 イゾルデ役の女性(Margaret Chalker)はまずまずだったが、トリスタン役のワークマンが、なかなか迫真の歌と身振りで、圧巻であった(なお、ワークマンは、バッハのミサ曲ではテノール・ソロ、ワーグナーの「トリスタン」では牧人で、それぞれ活躍した)。

とはいえ、実はこの曲への取っかかりがあまりないので、プログラム掲載の歌詞を適当に見ながら、聞いていたのだった。 第1部では、媚薬を飲む説明をする場面の音楽が、緊迫した感じを伝えていたように感じた。 物語の内容が、ワーグナーの「トリスタン」とは異なり、ベディエの「トリスタン・イズー物語」(岩波文庫にある)に基づくものなので、少々違いが見られるのだが、 第2部のモロアの森では、森の中で寝ている2人(2人の間には剣が置かれている)を目撃したマルケ王が、2人を殺さずに立ち去る場面の音楽も、なかなかよかったと思う。 最後の第3部では、白い手のイゾルデが出てきて、瀕死のトリスタンに嘘の報告をするのだが、この役を歌ったのが合唱団の中のアルトで、なかなか個性的な顔立ちの素敵な女性だったことが、鑑賞を楽しいものにしてくれたりもした(^_^)。 ワーグナーの「トリスタン」とはまったく正反対の静謐な音楽ではあるが、「トリスタン」を聞く前の気持ちの盛り上げという意味では、なかなか有意義な一晩だったといえる。 こうした曲で、指揮者がどの程度の役割を果たすのかはわからないが、合唱団の指揮者であるクリードの指揮は、作品を手堅くまとめていた点で、高く評価されるように思った。

この曲は、ベルリンでも室内楽ホールで3月に演奏されているが、せっかくの貴重な演奏なのに、空席が目立ったのが残念だったと、新聞の批評に書かれていた。 まったく同様の内容を、ザルツブルクの新聞でも目にした。 まあ、お客さんが入る曲とはいえないのが難点ではあろう。 逆にいうと、この曲を聞きにきたのだという気骨のある?聴衆が集まったせいか、 会場の雰囲気はなかなかよかったという印象も残った。 午後7時から、休憩をはさんで、約2時間20分の充実したコンサートのあと、ホテルに戻ってくると、荷物はちゃんとホテルのロビーに届いていた。 やれやれ。

(1999年12月 6日)

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